kishin 貴真

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20230326

/ART

ピカソ展でヌネイを観る

ひろしま美術館で開催されている企画展《ピカソ 青の時代を超えて》を観てきた。

全体の流れとしてピカソの生涯作品を時系列で紹介していて、超多作且つ作風が次々と移り変わっていくピカソの感性をざっくりとだが体感することができる、良い企画展になっていると感じた。

単にタブローを壁に掛けるだけではなく、ある作品では、カンヴァス上でピカソがどう試行錯誤しながら制作を進めていったのかを記録した映像を併置して見せたり、また別の作品では、近代のX線などの科学技術や画像解析によって明らかになってきた事実をレポートとして紹介していたり、もちろん、よくある手法として同時代の別の作家の作品と対峙させることでその時代感を漂わせたり、作家相互の影響を指摘するなど、多角的な視点で “ピカソ” を楽しめる展であった。

個人的にはスタイルが目まぐるしく変化していくピカソはさほど好きな作家ではなく、どちらかと云えばひとつのスタイルを追求して磨き上げていくタイプの作家に惹かれるところがあるので、同時代ならアメデオ・モディリアーニやアンリ・マティスに魅力を感じるのだが、ピカソに関して云うなら『青の時代』の作品群が一番好きなので、今回は5点を見ることができて非常に満足だった。

ただ、この展で最も見入ってしまったのはピカソではなく、イジドラ・ヌネイ(Isidre Nonell)の〈ロマの女の横顔〉という作品である。少ない色数でありながらも大胆且つ力強い構成、“人” を描きながらも個人の肖像としてではなく “人間” という存在に内在している逃れることの叶わない悲壮な運命を静かにけれど力強く見せることで何かを訴えかけようとするヌネイの作品の中にあって特に研ぎ澄まされた傑作ではないかと思える一点を不意に観ることができて感動した。

この作品一点を観るためだけでも訪れる価値のある企画展だと思えた。

入館前は1時間半くらいで周る予定でいたのだが、青の時代の作品群の良さとヌネイの〈ロマの女の横顔〉の素晴らしさに両の眼が張り付いてしまって、結局は足が出口に向かうことなく閉館まで3時間も滞在することになったのだが、素晴らしい作品たちを存分に堪能できてよかった。

ピカソが描いた一筆書きのヒヨコ

それにしても、ピカソの本名「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」は長すぎて本人でさえも覚えられなかったというのは、なんとも笑ってしまうエピソードである。

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