梅雨が明けた日曜日、早朝から晴れ渡った空を見て出掛けたくなり、ちょっと前から気になっていた東広島の西条へと酒蔵巡りをしに行ってみることにした。
酒蔵で試飲をするつもりで行ったので、この日は珍しくSTRiDAには留守番をしてもらう。
電車の生み出す一定のリズムを感じながら、青々とした山や空の中に悠々と流れる白飛びした雲を眩しく見上げる。空調の効いた車内でも窓からは外気の熱が伝わってくる。良い休日になりそうな予感が溢れてくる心地よいひとときだ。
30分ほど電車に揺られて到着した西条。
西条は、東広島市立美術館を訪れるために度々来ている場所ではあるのだが、酒蔵巡りはしたことがなかった。毎回「次に来た時には寄ってみよう」とは考えるものの、結局いつも忘れていて時間をとれずに立ち寄れないまま帰っていた。
駅から数分も歩けば酒蔵通りに入る。白牡丹、賀茂鶴、亀齢、賀茂泉といった広島ではよく見かける酒の名前を冠した煙突があちらこちらにそびえ立つエリアをのんびりと歩く。
それぞれの酒蔵の軒先にはどこも冷たい井戸水(地下水?)が湧き出ているのが印象的な光景だった。酒の仕込みに使う自慢の水なのだろう。手ですくって飲んでみると、猛暑の中ではそのひんやりと清涼な喉越しは一層たまらない美味さがある。地元の人々なのだろう、ペットボトルを手にやって来ては水を入れて持って帰るところをちらほらと見かけた。「うまい酒」と同じくらいに「うまい水」がここ西条では日常の中に溶け込んで存在しているのだろう。
白牡丹酒造の塀にある『四日市冥加の水』を「へぇ~そうなんだぁ」と思いながら読んで店内に入ってみる。
中には白牡丹の色々を紹介する展示があってなかなか面白く、特に棟方志功との関わりについては知らずに訪れたこともあり興味深く拝見させてもらった。「白牡丹」のロゴは筆によるものではない何か独特な魅力のあるものだと感じてはいたが、棟方志功の手になるものだとは想像もしていなかったので突然ピースがはまった感じで納得した。
白牡丹では試飲もさせてもらった。
広系酒44号と広系酒45号という、製品化される前の試験醸造酒を試飲できるというなかなか面白い試みがあったので2種類を飲み比べてみた。日本酒に全く詳しくない私の感想としては、口当たりが甘く優しく香りの奥行きが好みだった45号に軍配。しかし、料理と合わせて飲むなら甘めでありながらもキレのある44号の方がきっと人気になるのだろうなと感じた。
試飲なので1カップは大さじ1杯(15ml)程度だと思うのだが、2カップで30mlは酒に弱い私には十分な量で、早々に酔いを感じて心地よくなったところでランチを食べようと決めていた場所に向かうことにする。
酒蔵通りからは一本裏路に入ったような場所にあるイタリアン《Aspetta》。
落ち着いた静かな古民家でお庭を眺めながらピザをいただきたくてやって来た。この日は最初の客だったので、お庭に面した明るい席を選ばせていただいて、サラダ、ピザ、ドリンクのセットを注文する。
この時選んだのは、自家製ソーセージが乗ったほうれん草ペーストのピザだが、とても美味しかった。食材の味がしっかりと美味しく、生地は薄めでもモッチリとした歯応えで一口ごとに満足感がある。サイズは32cmだったと思うが、これが結構な大きさだったのでひとりで食べ切れるか心配になりもしたのだが、急かされる訳でもないので居心地の良い席でゆっくりと完食した。
ピザセットの他に肉料理セットの様なものもあったので、次に訪れた時にはそれを注文してみたいと思う。居心地の良いイタリアンをまた発見できて嬉しい。
ランチに満足をして店をあとにする。熱い空気に再び包まれて酒蔵通りを歩きながら、何か食後のデザートが欲しくて「冷たいかき氷かソフトクリームがいいな」と思っていると、亀齢酒造の軒先に「吟醸ジェラート」の文字を発見した。もし脳波を計測していたならば、発見から購入決定までのスピードは過去最高速と云えるほどの数値を叩き出していたことだろう。
店内で購入して、店頭のベンチに腰掛けて味わう。すっきりとしたミルク感のジェラートがベースだが、その味わいの中にほのかに酒粕に通じる香りを感じる。これは美味しいジェラートだった。これからの季節、暑い中を散策してちょっと休憩する際にはおすすめの逸品として推薦したい。アイスやかき氷を食べると急に体が冷えて寒さを感じたりすることもあるので、冷房の効いていない店外のベンチで食べるというシチュエーションが、逆に良かった。
賀茂鶴酒造のショップの展示は一番しっかりと作り込まれていて見応えがある。
一番嬉しかったのは、「櫂棒」に触れられるコーナーがあったこと。映画などでよく見てはいたけれども持ったことがなかった道具で、大きな樽の中を掻き混ぜるのに使われるが、どのくらいの長さなのだろう、重さはどのくらいあるのだろうといつも気になっていた。展示コーナーの樽には液体は入っていないので掻き混ぜる実体験はできないものの、実際に道具に触れて重さを感じ、樽の中を掻き混ぜるフリをできたことで実際のイメージはし易くなったと云えるだろう。その他の展示もしっかりとしていて大変勉強になった。
賀茂鶴のショップでもう一度試飲をする。今度は季節限定で製造されるという『純米酒にごり酒』と絢爛豪華でひときわ目をひくパッケージの『賀茂鶴ゴールド』を飲んでみる。
にごり酒は甘く濃厚で店頭パネルで紹介されていた日本酒ハイボールを試したくなった。賀茂鶴ゴールドはさすがイチ推しの銘柄ということもあり芳醇で余韻が楽しめる華やかな香りがとても良いお酒で、ヒラリと入っている花びら型の金箔も芸が細かくてこだわりを感じる。
どちらも気に入ったので酒蔵巡りのお土産として購入して帰った。
ちなみに、帰宅して夕食時に試してみた『にごり酒と強炭酸水を1:1で割ったハイボール』は想像以上に美味しくてこの夏のお気に入りになりそう。家でお酒はほぼ呑まないのに、これはすごくイイ。日本酒が苦手という人でも、甘酒寄りの味わいなので美味しくいただけると思う。
西条では、四季折々に蔵開きや酒まつりといったイベントも開催されているようなので、今後はそれらの情報をチェックして西条の酒蔵による日本酒を愉しんでみたいと思う。