kishin 貴真

Instagram
20240228

/ART

Casie 絵画との距離感

日常にこそ芸術はあるべき、と考えている。

よく聞く話として、欧米では気に入った絵画を気軽に購入して、自宅の壁に飾るということは普通に行われていて珍しいことではないという。無論、ここで云う “絵画” とは、クリスティーズやサザビーズといった有名なオークションで扱われる何千万・何億という高額な値のついた歴史的名画などではなく、近所の画廊を覗いて見つけたり、画家自身がフリーマーケットで売っている絵画を数万円程度で譲り受けて飾ると云う意味だ。

いい距離感だと思う。

芸術は、美術館に行かなければ触れられないものである必要はなく、むしろ日常にこそあるべきで、手の届くところにあるべきで、そうであるからこそ日々人に寄り添って魂を磨いてくれる存在となり得るのだと私は考えている。

そのちょうど良い距離感で絵画と付き合えるのが、京都にある会社が提供している絵画レンタルのサブスクリプションシステム《Casie (かしえ)》である。これを知ったのは今年に入ってからなのだが、すでに数年の運営実績があるようで、興味を持って色々と調べてみるとそのシステムは、作品をレンタルするユーザー側にとっても、作品を登録するアーティスト側にとっても、非常に魅力的なものであると感じた。

まず素晴らしいのは、登録されている作品は全て一点物ということ。印刷で大量生産されたようなものではなく、作家が一点々々作り上げている作品の原画をレンタルして日常に取り入れることができるというのは素晴らしい試みだと感じた。

そもそも、日本ではまだまだ絵画を購入して飾るという文化そのものがあまり浸透していないため、絵画を “所有” するという行為に敷居の高さを感じる人も多いだろう。その点 “レンタル” であれば、所有に比べてずっと軽い気持ちで試してみることができそうだ。

壁に気に入った絵画を掛ける。

些細なことだが、たったこれだけで日常の風景はガラリと変わるもので、それに影響を受けて、人の気持ちにも華やかさや快活さをもたらしてくれたり、安息のひと時を与えてくれたりもするから、芸術とは不思議なものである。

私も近所のギャラリーで開催される個展を観に行き、気に入ったものを購入させてもらっていくつか飾っているし、自分で描いた作品ももちろん飾っているが、自分の作品でも他の作家の作品でも存在の意味としては違いはなくて、日常を彩り魂を豊かにしてくれる大切なピースだと感じている。

だから、作品を選ぶ際には、自分の日常にうまくはまりそうなピースを選ぶことも大切だと思う。皆に人気がある作品だからとか、賞を取った作家の作品だからという理由では、どこかの知らない他人の評価・美意識・価値観に依存してしまっているがそうではなく、自分の感性と自分の日常を基準に選んだ方がきっとうまくはまるピースが見つけられると思う。

そういう点が‥‥つまり自分基準で考えて「他人はどうあれ、自分はこれが好き!」と胸を張って言い切る行為が欧米的で苦手に(何なら罪悪感さえ)感じる人が日本人には未だに多いのも、芸術を積極的に取り入れる妨げになっているように感じるが、「好きなものは好き」と言えるようになった人から幸せに近づいている気がする。

作品というのはどれも作家にとっては特別な愛着があるもので、知らない誰かに気軽に預けたり手放したりできるものではないという心情があると思うのだが、それでも多くのアーティストがCasieに登録しているという事実は、サービスのコンセプトが魅力的であるのはもちろんだが、創業者の藤本氏が、画家であった親御さんが苦労しているのを見ていたという経験もまた、多くのアーティスト達の信頼を獲得する一助になっているのだろう。

そんなCasieだからこそ私もコミットしてみたいと感じて、手元にあるいくつかの作品をエントリーしてみることにした。Casieのレンタル作品リストに登録されるためには作品ごとに審査を受けて通らなければならないのだが、幸いにも無事審査を通過することができ、現時点で7点をCasieに預けることになった。そして、有難いことに早速レンタルしてもらえている作品もあるようだ。

これからも、仕上がった作品を少しずつCasieに登録していけたらと考えている。私の知らない誰かが私の作品をレンタルして飾り、「アートのある暮らしって豊かだな」とささやかにでも感じてもらえたなら作品人生としても良いことだと思えるし、作家としても更なる制作の励みになる。

Instagram