ニコンのマイクロレンズ《Ai Micro-Nikkor 55mm F2.8S》を定価の1/20以下の安値で入手してみた。状態は悪く、レンズ内にはカビは無いものの大きめのゴミが散見され撮影画像に悪影響を及ぼす。そして、フォーカスリングが非常に硬くなっており全く実用的ではないという代物だ。
このレンズはニコンのMFレンズの中でも特にロングセラーを誇っていて40年近くも販売され続けた銘玉なのだが、2020年に惜しまれつつ生産・販売を終了した。そのため、中古市場には比較的多く流れてはいるが、上記のような経年劣化による状態が悪い個体も多いようだ。
以前から、同タイプで少し暗い《Ai Micro-Nikkor 55mm F3.5》は愛用していて、このレンズの描写や使い勝手の良さが大変気に入っていたため、更に明るく “銘玉” との呼び声高いF2.8もずっと気になっていた。そんな経緯もあって、ようやく入手できたのは喜ばしい。
オールドニッコールの分解修理は何度か経験しているので、もう最初のような緊張感は無く、必要な道具もすべて揃っている。けれどレンズごとに構造は異なるわけで、分解前にこのレンズの分解に関する情報を調べてから分解修理に取りかかった。なお、素晴らしく有益で、多分に参考にさせてもらったmikeno62氏による分解動画2点を以下に紹介しておく。
○Stiff focus ring in outer focus helicoids in Ai-s Micro-Nikkor 55mm 1:2.8
○Stiff Inner Helicoil in Micro-NIKKOR 55mm 1:2.8 AI-s
© mikeno62
分解して再度組み立てる際の参考として、段階の都度写真を撮影したりメモをとったりしながら分解・清掃を進めていく。特にレンズまわりの構造については向きや順番が極めて重要なので分からなくなったりしないように細心の注意が必要である。
このレンズに関して言えば、ネット上に情報も多いので検索すればレンズ構成などはすぐに分かるのだが、レンズとレンズの間にある金属環の裏表といった細かい部分や、あまり人気の無いレンズの場合には、欲しい情報になかなか辿り着けないこともあるので慎重に。
焦らず慎重に作業をすすめて無事に復活させることができた。
このレンズによく見られる「絞り羽の粘り」という症状は、幸いなことにこの個体にはなかったので、全てのレンズを取り出してゴミを除去&磨き上げ、そしてヘリコイドの固着した劣化グリスの除去と再度グリスアップを行なった。このレンズはアウターヘリコイドの中にインナーヘリコイドが入れ子になっている “ダブルヘリコイド構造” なので、この点だけはちょっと手間がかかるが、慎重に行えば問題はない。
元々、外観には傷は無く過度の劣化もない綺麗な個体であったため、実用可能な状態に甦らせることができたのは嬉しい。
早速持ち出して試しに撮影してみた。
無限遠も問題なく出ているし、開放マクロでもシャープに描写してくれる。ボケの感じに変なクセもなく素直な描写なので色々なタイプの現像にも何ら違和感なく対応できると感じた。なるほど、確かに銘玉であるようだ。まだちょっと使っただけだが、それだけで常用レンズとしての使いやすさを実感している。
マクロレンズだが、更に寄って撮影するためにKenko AC CLOSE-UP No.4を付けて撮影してみたが、このクローズアップレンズとも相性が良くとても魅力的な描写をしてくれた。
オールドレンズと云っても、最近までレギュラー販売されていたモデルなのでちょっと特殊ではあるが、流通数から云えば入手しやすいモデルであり、前述のように情報も豊富なので、オールドニッコールの分解修理に挑戦してみたい、或いは高価な新品レンズには手が出せないが、ポテンシャルの高い中古レンズを修理して使ってみたいと興味がある向きには、最初の1本として割と扱いやすいのではないかと思った。