kishin 貴真

20180914

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Bokeh:深度コントロールを考察してみる

iPhone XS

日本時間で9月13日深夜に新型iPhoneが発表された。

ジョブズが逝去してから、発表イベントをオンタイムで観ることはなかったのだが、久し振りに観てみた。その中で、iPhoneの写真関連の新機能として、撮影後に被写界深度を調整できる『深度コントロール』なるものが発表された時には、聴衆の拍手は大きかった。

パッと見では確かにインパクトがある機能ではある。

この機能を受けて、ツイッターでは「もうコンデジはいらないな」「一眼レフより使えるかも…」といった声が流れているが、イベント中の映像を見た時の不自然さが気になり、どうにも腑に落ちないので考察してみることにした。

以下の考察は、現在ある情報だけで判断しているため間違っている可能性もあるのだが、レンズ構成、センサーの種類などを念頭に考えた場合、おそらくは間違ってはいないだろうと考えている。

そもそも被写界深度とは何か。

簡単に言えば、焦点を合わせた地点から離れれば離れるほどボケて鮮明ではなくなる、その鮮明〜ボケの空間的距離のことで、被写界深度が浅い場合、焦点が合う範囲(奥行き)が狭く顔だけが鮮明に撮影されて背景はボケる状態。逆に被写界深度が深いというと顔から遠景までがクッキリ映る状態であるといえる。

このボケを発生させるのがカメラに内蔵された複数構成のレンズ群とシャッター構造であり、シャッターの開閉によって入射光の角度を調整することで被写界深度が変わってくる。というのが主流の機構であり、iPhoneのカメラの場合でも同様のはずである。

ここまでの知識があれば気づくことなのだが、“撮影後に入射光の角度を調整”することは物理的に不可能である。とすれば、今回iPhoneに搭載された『深度コントロール』はあくまでもソフトウェア的な処理による擬似的な被写界深度の調整ということになるだろう。

iPhone XR 深度コントロール

この機能をどうやって実現しているのか考えてみた結果、下記の処理を行っているものと思われる。

●前景にいる人物をセグメンテーション=背景と分離。
●この時、顔認識機能やNeural Engineの情報を元に人物の詳細な立体像も取得し、背景と分離するためのマスクを構築する。
●マスクを元に分離された背景のみにボカし処理を施し、擬似的に被写界深度が変化しているように見せかける。

これが正しい場合、これを自動でほぼ瞬時に処理しているというのは確かに凄いことではあるのだが、しかし一方で、光学レンズによるボケとは異なった不自然なボケ方になることは避けられない。なぜなら、この処理の場合、前景の人物の立体像は顔認識機能やNeural Engineなどの恩恵である程度の奥行きの変化は掴むことは可能かもしれないが、背景となる部分の遠近は認識できないはずだからである。

例えば、光学レンズによるボケの場合、3m先の建物と50m先の建物では当然ボケ方が異なってくる。遠い方がより大きくボケる。しかし、ソフトウェア的な上記の処理の場合には、3m先でも50m先でも全てまとめてひとつの『背景』として均一のボケ処理が施されることとなる。イベント時の映像を見ていて不自然さを感じたのは、おそらくこの点だろうと後々考察してみて思い当たった。

上記の処理は、Photoshopを使えばほぼ同じことが手動で行えるため、Appleのサイトで公開されている動画からこの機能を紹介している部分をキャプチャして検証してみたのが以下の画像である。

iPhone 深度コントロール

ボケ方の若干の違いはソフトウェア処理上でのアルゴリズムの違いによるものなので完全には同じにはならないが、深度コントロールによる効果とほぼ同様の結果を確認することができた。注目すべきは、向かって左側の壁と右側奥のテント付近のボケ方である。光学レンズによるボケの場合、ここまで距離が異なる2点ではボケ方も変わるのだが、この検証結果を見ると双方ともに均一のボケ処理が施されていることが確認できる。

新機能『深度コントロール』は、光学レンズのそれを忠実に再現する機能ではなく、あくまでも疑似的に雰囲気を楽しむ程度のものであるということを理解した上で利用し、活用するなら愉快な機能であると言えるだろう。しかし、高品質な大きなレンズを搭載したカメラによって表現される被写界深度を効果的に使った写真の代替とするにはまだまだ先は長いとも言えそうだ。

それにしても、背面レンズの出っ張り…。ジョナサン・アイヴ自身がその醜さを認めているにも関わらず、何故、数年間もの間放置し続けるのだろうか? Appleはもう、プロダクトデザインの美しさを追求することを止めてしまったのだろうか? だとすれば、とても悲しいことである。

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