kishin 貴真

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20230625

/PHOTOGRAPH

PANAGORの広角レンズを分解清掃

最近、M42マウントの28mm広角レンズで良いものを探している。そこで、日本ではあまり多くは出回っていないレンズを入手してみた。JACA Corp.の《PANAGOR PMC AUTO WIDE-ANGLE 28mm F2.8》である。同じシリーズで、F2.5のタイプも存在していてそちらの方が玉数が多い印象だが、F2.8の方がコンパクトで見た目が好みだったのでこちらを選択してみた。

私は詳しくないのだが、ちょっと調べてみるとJACA Corp.というのは、1970~1980年代に日本に存在した販売代理店で、そこで海外輸出向けのカメラレンズ・ブランドとして展開していたのが『PANAGOR』シリーズであったらしい。この会社ではレンズの製造は行っておらず、製造は外部に委託し、それが “コミネ” だとか “キノ精密工業” だとかいう話があるようだが、正確なところは分からない。

オールドレンズ界隈の情報は、こうした真偽入り混じっての、真実・噂・願望・思い込み・勘違いなどが玉石混交なところが調べていて愉しい。半世紀も経った今となってはそれらの真実などはさほど重要ではないし、むしろ本当のところがはっきりしない方が「まぁとにかく使ってみよう」という気にもなる。本来道具とは、レンズとはそうあるべきだろう。

という訳で、レンズ性能や描写傾向のレビュー数も極端に少なくて、ほぼ参考になる情報が見つけられないPANAGORレンズを自分で使ってみることにした。

eBayで購入し、ポーランドから発送され、手元に届いたのは13日後の金曜日だった。届いたレンズの状態は、外観はかなり綺麗でレンズ表面にも致命的な傷などは無く、多めのチリの混入とヘリコイドのグリス抜けでフォーカスリングがスカスカであるという、つまり分解清掃をすれば気持ち良く使える状態であった。

グルッと見回してみて、多分大丈夫だろうと考えて分解を始める。市場に出回っている数が多いレンズならばネット上に分解情報なども多いのでそれを参考にすれば良いのだが、作例さえほとんど見つけられないレンズの分解指南など見つかる筈もなく、ここから先は自分の経験と勘とセンスで挑むことになる。

前玉は、よくある構造で銘板をクルクルと回せば外せる。出てきた前玉ユニットも回転させれば簡単に外せる。そしてアクセスできるようになる3本のネジを外せば、絞り&後玉ユニットがゴソッと外れる。

ここまでは順調だったが、ここで行き詰まってしまった。経験上、この次はフィルター枠を回して外す構造に思えたのだが、いくら力を入れて回そうとしてもフィルター枠がびくともしない。あまり力づくでやってしまうと、想像と違う構造だった場合には思わぬ損壊を招くことになるので、一旦落ち着いて構造を観察する。

しかしやはり、ここを回して外す以外ないように思えたので、接合部に無水エタノールを多めに流し込んでしばらく待ってから、もう一度だけ筋肉がプルプルするくらい思い切りの力で回してみた。すると “ズルッ” という音とともに回転してくれた。外してみると、組み立て時にネジ部にかなり多くの接着剤が塗られていたことが分かった。簡単には外れない訳だ。しかしホッとひと安心した瞬間である。

次は、フォーカスリングを外す行程なのだが、一見すると外し方が分からない。よくよく観察すると、フォーカスリングに巻かれたゴムベルトの裏側に位置するところに固定金具が見えたので、過去に分解したレンズの経験から、ゴムベルトを外すと隠しネジにアクセスできるのだろうと予想した。傷を付けないように爪楊枝でゴムベルトを持ち上げてゆっくり外すと、予想通りに2本のネジが現れた。このネジを外して内部にある “リングの回転角を制限する金具” を取り外し、更に内部に見える3本のネジを外すとフォーカスリングを抜き取ることができる。

あとは比較的分かりやすい構造になっていて、オールドニッコールや富岡光学製のオールドレンズを分解清掃した経験があれば難なく進めることができるだろう。今回は、取り出した前後のレンズユニットを更に分解して各レンズ間のチリの除去と磨き上げ、そしてヘリコイドまで完全分解して、ベンジンで古いグリスを除去してから、再度グリスアップして組み直すことで素晴らしい状態のフォーカス・フィーリングを取り戻すことができた。

輸出用ブランドだけあってPANAGORは国内よりも海外に多く出回っているらしい。このレンズを入手して、かつ分解清掃までして使おうとする人がどれほどいるかは分からないが、そんな人のために参考情報として役に立てば幸いである。

ちなみに、このPANAGOR 28mm F2.8で最初に撮影した時の感想を一言に集約するなら「Wow!!」である。この点については、別の投稿で紹介してみたいと考えている。

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