kishin 貴真

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20211002

/ARTPHOTOGRAPH

立体としての光 空気の中の芯

Nikon Df:NIKKOR-S Auto 55mm F1.2:ISO6400 f1.2 1/60

呉市立美術館で始まった《其阿弥赫土展 ─幽玄を描いた日本画家─》を観るためにストライダで呉まで行った。片道2時間程度なので気候の良い日にはちょうどよい運動&気分転換になる。

この日は、最近入手してまだ個性が把握しきれていないオールドニッコール NIKKOR-S Auto 55mm F1.2 の描写を楽しむ目的もあった。途中のベイサイドビーチ坂でちょっと休憩して軽く撮影もしてみる。

Nikon Df:NIKKOR-S Auto 55mm F1.2:ISO100 f1.2 1/1250

明るい日差しの中、気持ちの良いそよ風をうけて揺れるネットを捉える開放F1.2の明るいレンズの描写は実に繊細で、ネットよりもむしろ風の方を写しているかのようなエアリーな柔らかさ、不思議なふっくらとした空気の含みを感じる。興味深いレンズである。

呉に到着してまずはちょっと小腹が空いていたので、いつも楽しみにしている揚げたての《福住フライケーキ》を2個かじってから呉市立美術館に入った。

呉市立美術館 其阿弥赫土展 ─幽玄を描いた日本画家─

其阿弥赫土氏の作品はおそらく初めて目にしたと思うのだが、ソフトフォーカスレンズで撮影した描写のような、深く霞がかったような描写でありながらも芯があり、光の描写よりも空気の描写と云える。空間的にも時間的にも深みを感じる表現はまさに “幽玄” という言葉がしっくりくる非常に魅力的な作品に出会えた。これは見ておいた方が良い展としておすすめだ。

満足度の高い美術展の余韻に浸りながらぷらぷらと見慣れない商店街を歩く。
気の向くままに写真を撮りつつ、お腹も空いていたのでごはん屋を探す。

Nikon Df:NIKKOR-S Auto 55mm F1.2:ISO200 f1.2 1/2000

Nikon Df:NIKKOR-S Auto 55mm F1.2:ISO200 f1.2 1/500

Nikon Df:NIKKOR-S Auto 55mm F1.2:ISO100 f1.2 1/1250

このレンズの開放F1.2での描写は本当に面白い。

F2まで絞るとニコンらしくキリッと締まりはじめて解像度も素晴らしい描写をするという点は安価で入手できるオールドニッコール50mm F1.4などとも違いは無い印象だが、開放F1.2だと周辺減光もかなりのものだが、それよりも他のニッコールではなかなか感じられない魅惑の柔らかさがある。空気がふわっと写りつつも芯が感じられるという点、図らずも其阿弥赫土氏のそれとシンクロする魅力を感じた。

Nikon Df:NIKKOR-S Auto 55mm F1.2:ISO200 f1.2 1/500

「何か定食が食べたい」腹でふらりと立ち寄ったのは《寿食堂》。

こういう長年やっている系のお食事処のあるあるだが、おもてのショーウィンドウの食品サンプルが実物と全く違うという現象が私は結構楽しみで、“絶対こんなんじゃないだろ” と思いながら入店して注文、出てきて答え合わせをするのをワクワクして待つのが好き。

寿食堂のカツ定食も予想通りおもてのサンプルとは全然違っていて、小鉢とか小鉢とか小鉢とか色々付いていて、しっかり美味しくお腹いっぱいになりすぎる(ご飯の「中」であんな量って…)良い定食だった。おもての食品サンプルはマイナスプロモーションにしかなっていないが、今後も絶対に変えないで欲しいな、と無責任に願う。

店を後にする頃にはすっかり日も暮れていた。
STRiDAで呉に来る時には輪行袋を持ってきて、帰りはフェリーで宇品まで行ってしまうことも多いのだが、この日は輪行袋も忘れてきたし、風も気持ちよかったので、途中々々で夜景でも撮影しながらゆっくりと帰ることにした。

Nikon Df:NIKKOR-S Auto 55mm F1.2:ISO800 f1.2 1/100

最近は、明確に被写体を解像するのではなく、視覚的な印象を撮る、あるいは絵画的ではなく彫刻的に空間を撮るほうが結構感性に合ってきていて、だからあえてフォーカスを逆方向に全振りしてこういうカットだって楽しめる程度には “撮影” という行為に馴染んできた感があって、どんどん楽しくなってきている。

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