kishin 貴真

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20191105

/ART

FIMOにカシュー漆

オーブンで焼成して硬化する合成樹脂粘土《FIMO フィモ》の仕上げに、ニスを塗ってツヤを出したい。最初は『FIMO専用ニス』を使ってみたのだが、塗装を施してから数ヶ月後によく見てみると、ニス塗膜内部に微細な亀裂が生じていることが判明したため、別の塗膜も試してみることにした。

試したのは以下の3種類の塗膜である。
○ステッドラー フィモ専用 水性ニス
○ナガシマ ネオ ウレタンクリヤー(+ウレタン うすめ液)
○TOHO 特製うるし 本透明(+特製うるし 専用うすめ液)

基本手順として、まずは焼成硬化後のFIMOの表面を紙ヤスリで磨いて整える。FIMOの場合には、最初に#120番手のヤスリで大まかな形状を削り整え、#240番手のヤスリである程度滑らかにし、#400~#600番手で仕上げる。ニスなどの表面塗膜を施す前段階としてここまで処理しておけば、塗膜はかなり美しく仕上がる。

今回の検証では、ベースとなるFIMOの焼成後、あえて凹凸が分かりやすい#120番手で筋目を残した状態にした表面と、更に細目の#240番手で整えた表面に各塗膜を施して結果を見てみることにした。

塗膜は一度で厚塗りせずに複数回重ね塗りするのが良い。

この時、二回目以降に塗る際には、下塗りと上塗りの間が剥がれてしまう症状 “層間剥離” に注意する必要がある。この症状の原因としてはいくつか考えられる。焼成後のFIMOがきちんと冷却されないうちに塗ってしまった場合。下塗りが完全に乾燥していない状態で上塗りをしてしまった場合。下塗り層に上塗り層がうまく吸着していない場合などであるが、要は手順を踏まえ必要な時間をかけて焦らず丁寧に処理すれば防ぐことのできる症状である。

(左) フィモ専用ニス (中央) ウレタンクリヤー (右) 特製うるし

一回目の塗装を行い、二日間乾燥させたのち、層間剥離を防ぐために二回目の塗装の前に#400番手の紙ヤスリで表面を軽く荒らす。こうすることで下塗りと上塗りの吸着度がより高くなるのである。削った後に水洗いをして微細な削り粉を除去してから完全乾燥させて、二度目の塗装を行った。それぞれのベースは、側面は#120番手の粗さで、頭頂部のみ#240番手で整えた状態にしてある。

なお、『ウレタンクリヤー』と『特製うるし』については、原液のままでは粘度が高く薄塗りするのが困難で気泡も残りやすいため、それぞれに適した薄め液を加えて粘度を落として使用している。これらの薄め液は、塗装に使用したハケや容器などの洗浄にも活用できるので、塗装を試す際には一緒に用意しておくと良いだろう。

○ステッドラー フィモ専用 水性ニス

元々の液体の状態でも白濁したニスなのだが、乾燥後もその濁りは残る印象で、透明な塗膜を施した場合に感じる、より色の深みが際立つという効果は残念ながら得られない。また、前述した通り、経年によりヒビ割れが生じる可能性もあり耐候性が低いようなので、オモチャ的に手軽に使うには良いが本格的に塗膜を施したいのなら別のモノを選択する方が良いだろう。

○ナガシマ ネオ ウレタンクリヤー(+ウレタン うすめ液)

透明度が高くカシュー漆に比べて乾燥も早い(数時間)ので選択肢としては悪くない。しかし、使用の際にA液とB液を同量で混合して使う二液型であり、更に、うすめ液を使用する場合には三種類を混ぜることになるのだが、これが思いの外面倒な手順であることも否めない。塗膜の強度に問題は無さそうだが、良くも悪くも塗膜の厚さが薄いので塗る前の処理でヤスリ#600番手くらいまでは処理しておかないと塗膜後にも筋目が分かる状態になってしまうので注意が必要である。

○TOHO 特製うるし 本透明(+特製うるし 専用うすめ液)

三種類の中で最も透明感と物質感が高く塗膜も厚くぷっくりとした表情になる。塗膜前にヤスリ#400番手まで処理しておけば筋目は感じられないので前処理が楽な点でも有利と云える。ただし、これは “カシュー漆” と呼ばれるタイプの塗料で乾燥は遅く、塗装後にヤスリがけなど次の処理を行えるようになるまでの乾燥に15~30時間を要するため手軽さという点では若干の難がある。そのマイナス点を考慮しても仕上がりの上級感には捨てがたい魅力を感じるものがあり、個人的には最も評価したい。液を混合しなくてもよい一液型という点も好評価だ。

なお『カシュー漆』は、工芸品などに使用される伝統的な『本漆』とは乾燥方法が真逆である。

本漆の場合、乾燥には室(ムロ)と呼ばれる高湿度と適度な温度を保つ環境を用意し、保湿しながら乾燥(酸化重合による硬化)するらしいので気軽には手を出しにくいものである。
一方、カシュー漆は、熱帯性漆科植物であるカシューナッツの殻から抽出した油を原料に有機溶剤などを掛け合わせて製造された合成樹脂塗料で、一般的なニスと同様に自然乾燥が可能であり、乾燥に多少の時間はかかるものの本漆のような扱いにくさは無く、素人でも容易に手が出せるのは魅力的。

また、“本漆の代替品” “紛い物” という認識もあるようだが、『紫外線に強い』『塗装後の保存に湿度を必要としない』『ほぼカブレることは無い』等の本漆には無い良さを持っているという点で、その塗膜は本漆に似た性質・表情を持ってはいるが本漆とは別の個性を持った塗料として捉えるのが正当な評価であり、現代では神社仏閣の外装内装などにも積極的に活用されている事実が証明している通りその塗膜品質には定評があるようだ。

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FIMOの表面仕上げの塗膜として使えるものは無論この三種類だけではないが、個人的な感覚として、この三種類の中ではカシュー漆の質感に格別の魅力を感じたので、経年変化の観察も含めて、しばらくはこれを使ってみようと思っている。

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