kishin 貴真

20190413

  /  PHOTOGRAPH

非Aiレンズを全分解

非Aiレンズである〈NIKKOR-S Auto 50mm F1.4〉のジャンクを入手した。

目的は、非Aiの明るい標準レンズが一本欲しいという理由もあったが、それよりも経験としてレンズの分解メンテナンスをしてみたかったというのが大きい。

入手したジャンクは、外観は超美品といって良いのだが、カビの菌糸が中玉に多数あり、曇りも若干あるような状態。未清掃のままで撮影してみると、やはり画像はコントラストが低く全体的にふわっと薄~く紗をかけたようなものとなる。これをこのまま“オールドレンズの味”として使うのもアリとも云えそうなのだが、そもそも分解目的で入手したので、分解してできる限りキレイにする。

まずは分解の下調べとしてネットで情報を探すのだが、NIKKOR-S Auto 50mm F1.4といっても製造時期などにより様々なバリエーションがあることが分かり、しかも、私が入手したカニ爪に丸みが無くマウント面にネジが無いタイプの分解方法については詳細な分解情報を見つけることができなかった。

ただ、一番前のレンズを押さえる機能を果たしている輪っか状の部品“銘板”を外すためにはゴム製のオープナーが必要ということだけは分かり、それはゴムの戸当たりで代用できるという情報が多かったので、近くのホームセンターで直径45mmのものを調達してきた。¥181也。

早速、銘板を外すためにゴムの戸当たりを押し付けようとするが、いきなり問題が発生する。

このレンズの場合、凸レンズのため中心部が膨らんでおり、戸当たりを銘板に押し付けようとしてもレンズ中央部に当たってゴムの円周が銘板に届かない。それならば、戸当たりのレンズに干渉する部分が無ければよいので、電動ドリルにヤスリビットを装着して戸当たりの中心部をゴゴゴゴッと削り取って、特製レンズオープナーを作った。

改めて、特製レンズオープナーを銘板に押し付けて回転させると簡単に取り外すことができた。

レンズの分解にはカニ目レンチが必要という情報もあり、手持ちのピンセットでどうにもならなかったら購入しようと思っていたのだが、結局このレンズの分解にカニ目レンチを使用する場所は無かった。

外せそうなネジは外し、回せそうなところは回して、どんどん分解していく。後の組立ての際に参考にするために、分解のステップ毎に写真を撮っておくことを忘れていたらきっと組立てはできなかっただろう。想像以上にネジの数も部品の数も多いことに驚いたが、それ以上に、合理的で美しい構造に感銘を受けながらまじまじと観察しつつも、いくつかの壁にぶつかっては乗り越えたので備忘録を。

まず、外し方が分からずに時間がかかったのは、絞り環の外し方だった。

物理的に引っかかっている部分は無さそうだしネジも無いしで、どうやったら外れるのか分からず手詰まりになってクルクル回しながら観察していたのだが、本体部と絞り環の間に見慣れない隙間が生じていることに気が付いて、もしかしてと思い、絞り環をグルグルグルグルグルグルグルグル回転したらスポッと外れた。単純にネジ構造になっていた訳だが、ネジ山のピッチが細かく、且つ回転数が多いのでちょっと回しただけでは外れそうな感じがしないので気がつくのに時間がかかった。

もう一箇所手間取ったのは、ほぼ分解も終わり、残すはヘリコイドユニットの分解だけという時。

単純に回転させれば取れそうなのだが、縦の動きを制限しているらしいコマ部分が引っかかってバラすことができない。いくら観察しても、このコマ部分がある以上物理的に分解は不可能なので「絶対、このコマを外す方法があるはずだ」と信じて丹念に観察した結果、コマの左右の穴の奥にネジを見つけた。

最初は、このネジは汚れたグリスと埃で埋まっていてそれがネジだということが分からなかったのだが、精密ドライバーの先端で掻き分けてようやく辿り着くことができた。そして、無事にコマを外して、劣化したグリスにまみれたヘリコイドユニットを分解することができた。回す指がつりそうになる程に重かったフォーカスリングだが、これを見て「そりゃそうだ」と納得する。

劣化したグリスは粘度も高くこびり付いている上に、ネジ溝の底まで除去しないと引っかかりの原因になったりもしそうなので、ここは時間をかけて丁寧にクリーニングした。精巧に削り出された金属部品というのはやはり美しい。

真っさらになったところにテキトーな量の〈ヘリコイドグリス #30〉を綿棒で塗布。一旦、ヘリコイドユニットを組み上げてトルクを確認し、ちょっと重すぎたため、バラしてグリスを半分程度拭き取って調整した。Japan Hobby Toolで販売しているこの用途のヘリコイドグリスには、#10と#30があるのだが、どちらを選択したらよいのか分からなかったため、ネットで使っている人が多かった#30を選択した。結果、決して悪くはないのだが、このレンズ用としては若干固めだった印象がある。次のメンテナンスの際には、より柔らかい#10のヘリコイドグリスを試してみたい。

ちなみに、#10と#30のセットも販売されているのだが、このセットの存在に気がついたのは#30の注文後であったため、今手元にあるのは#30だけである。これからレンズの分解メンテナンスを試される方には、まずはこのセットで自分好みのトルク感を探ることをオススメする。

ヘリコイドのメンテナンスが終わった後は、各レンズ、部品、ネジの汚れをそれぞれ拭き取ってキレイにしてあげた。レンズにあったカビの菌糸は幸い根深いものではなかったため、無水エタノールで拭き取ることができた。開腹後の状況次第では禁断のカビキラー術式を採ることも考えていたのだが、今回は必要なかった。若干の曇りに関しては、経年によるコーティングの劣化だと思われるのでこれは致し方無い。

今回、分解/組立てに非常に貢献してくれたMVPは、意外にもゴム手袋だった。

普段から掃除などで活用している花王〈リリーフ おむつ取換え手袋〉なのだが、天然ゴム素材でグリップ感が向上してかなり使いやすい。パウダーフリーなので、レンズ部品を粉で汚す心配もない。こういう手袋をはめた時、誰もいないのに外科医になった気分で「メス」と呟いてしまうのは絶対に私だけではないと思う。

単純に指先の皮脂や汗が付かないようにとゴム手袋をはめて作業に取り掛かったのだが、指かかりが無く回転させにくい構造になっている箇所も、ゴム手袋をしている掌にギュゥッと押し付けて回転させることで容易に回転させることができた。こうした部分を回転させるためのゴム製の専用ツールも販売されているようだが、少なくともNIKKORのこのタイプに類似した構造のレンズを分解するのであれば、ゴム手袋で十分なのではないかと感じた。

全ての部品を磨き上げて、逆の手順で組立てる。往路で写真を撮りながら作業をしていたので、復路はその写真を参考にしつつ、特に戸惑うこともなく簡単に組立てることができた。

清掃後にテスト撮影。コントラストが上がり全体的にクリーンな画像が復活したのを確認した時にはちょっと感動した。手間暇をかける醍醐味はこういう実感にあるのだ。懸念したレンズの曇りの影響も無く、上々の仕上がりとなった。自然で美しいボケ味が堪能できる良いレンズだ。

Nikon Df:NIKKOR-S Auto 50mm F1.4:ISO200 f2 1/800

Nikon Df:NIKKOR-S Auto 50mm F1.4:ISO200 f11 1/200

Nikon Df:NIKKOR-S Auto 50mm F1.4:ISO100 f5.6 1/800

NIKKORの非Aiレンズの分解は、やってみると難易度は高くないなというのが感想である。自信がついたので、次はもう一本ある非Aiレンズ NIKKOR-N・C Auto 24mm F2.8 のヘリコイドがちょっと軽くなってしまっている問題をゴールデンウィークにでもゆっくりと解決してみようかなと思っている。

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