気づけば毎年の恒例となった厳島は弥山への締詣に行ってきた。今年は、年末の数日が雪の予報であったため、例年よりちょっと早めの週末に訪れてみた。いつもなら広電で宮島口まで行くのだが、コロナ禍にあっては長時間を閉鎖空間で過ごすのもどうかと思ったのと、前々からストライダで行くとどのくらいの時間がかかるのか気になっていたこともあって、広島市内からのんびりとチャリチャリ走っていくことにした。
朝の9時ジャストにSTRiDAに乗って出発、宮島口に到着したのが10時半。ちょうど1時間半で到着した。2時間を予定していたので思いの外早く到着して、まず驚いたのが、フェリー乗り場が見慣れて知っているものとは全く違っていたこと。知らぬ間にガッツリと建て替えられて、風情も何も無いどこにでもあるよく見る感じの今風のオシャレな建物になってしまっていた。
これはこれで時代の流れでイイのかも知れないが、特に観光地の “その土地ならではの雰囲気” みたいなものが失われて、ただただキレイなだけになっていくとしたら、そこには抵抗する歴史の重みみたいなものがあっても良いのでは?と感じられ、少々寂しさを覚えた。
そんなことを考えつつ、毎回定番となっているフェリーターミナル近くのパン屋《エッフェル》で、山頂で食べる用の山賊焼とあんぱんを買ってからフェリーに乗り込む。週末だったがこのご時世であるため客足は半分くらいといったところで混雑という状況ではなく、観光はこれくらいの賑わいが丁度良い。
弥山登山の3コースのうち、この日は最も長い道のりとなる原始林を突破する『大元コース』を選んだ。スタート地点となる大元公園では群れを成して日向で暖かそうに寛ぐ鹿さんたちと暫し戯れてから登山を始める。
このコースが最も観光客が少ないであろうとの予想は的中し、登頂するまでに2組しかすれ違わなかったので、気兼ねなく大気を喰らいマイナスイオンを吸い込んだ。
苔生した岩肌に悠久の時の流れや生命の深みを感じたり、冷んやりとした木陰にきらりと射し込む白い光の美しさに驚いたり、想像力を掻き立てる多様な巨岩にワクワクしたり、このコースは単に同じ景色が延々と続くようでありながら実は結構面白い光景で出迎えてくれる興味深いコースである。自然こそ造形の天才である。
ちょっとやっかいであった一年に思いを馳せながら、心持ちに始末をつける。そして、じきに訪れる新しい年をどう迎え入れるかの準備を整える。そんな締詣には、弥山に一歩々々登る疲労感や空気感は実にちょうど良い時の過ごし方と云える。
地面と巨岩の間にできた高さ120cmほどの隙間に祀られた岩屋大師まで到達すれば頂上はもう遠くはない。この日も、人が多いであろう弥山頂上へは行かずに駒ヶ林頂上に向かった。いつもこちらの方が登山者が少ないため、頂上でゆっくりと静かに過ごせるので気に入っている。
駒ヶ林頂上には人工の展望台などは無いが、自然の岩肌が広がっていてそこがちょうど良い休憩スペースになっているので、荷物を下ろし腰掛けて、遥々の島々や弥山頂上越しの海を望みながら昼食にする。ここにはいつだって清々しい疲労感と開放感がある。
あたたかな陽射しの中で足を伸ばしてのんびりと過ごし、疲労が回復したところで、しっかりと水分補給をしてから奥の院に向かった。