kishin 貴真

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20230820

/PHOTOGRAPH

ソ連製 “A”レンズのマウント交換

YouTubeで《MC JUPITER-37A 135mm F3.5》を紹介している動画を見て興味を持ってeBayで入手してみた。

入手したのはM42マウントタイプだったが、興味を持った点が絞り羽根12枚によって生み出されるスムースなボケ味だったので、グラデーションを充分に捉えるためにフルサイズセンサーを搭載したNikon Dfと一緒に持ち出した。M42→Fマウントの変換アダプターを使うとテレ側にピントが合わなくなるがこの時は近接~7m程度までを射程距離として、まずはこのレンズの写りを試すことにした。

Nikon Df:USSR MC JUPITER-37A 135mm F3.5:ISO100 f3.5 1/100

結論はすぐに出た。「あぁ、このレンズ好きだ」と感じた。

ピント面のシャープネスが高くDfのファインダーでもピントが合わせやすい。JUPITER-37Aの絞りはプリセット方式なので各絞り値合わせで使うことも可能だが、f3.5~f22まで無段階で操作することも可能でこの場合の使い勝手も良い。絞り羽根が12枚で常にほぼ円形の絞り形状となるため、どの絞り値でもボケ味に硬さがなくて心地よく溶けていくのがとても魅力的である。

また、135mmという中望遠でありながら筐体サイズがかなりコンパクトなのも魅力的である。Super-Takumar 135mm F3.5とほぼ同サイズだが、JUPITER-37Aの方が最短撮影距離が短くて1.2mとなっているのは実使用時には意外と効いてくるアドバンテージだと思う。

この時は、テレ側の撮影はできないという制限付きで使ってみたのだが、想像していた以上に気に入ってしまって、是非Nikon Dfでこそ使い倒したいと思った。そこで思い出したのが、このレンズはマウント交換式ではなかったか?ということ。

調べてみるとやはりそうで、この年代のソ連の “A” レンズシリーズと呼ばれるいくつかのレンズは交換式のマウントを採用していて、使用するカメラに応じてマウントパーツを交換することで切り替えられるようになっている。KenkoのTマウントやPマウントと同じようなシステムである。

MC JUPITER-37A 135mm F3.5+KP-A/N+Nikon Df

“A” レンズシリーズには、JUPITER-37Aの他に、MIR-10A、JUPITER-11A、JUPITER-21A、TAIR-11A、TAIR-3A、MTO-1000A、3M-5Aなどがありどれも型番の最後に「A」が付いている。この “A” レンズをNikonのFマウント化するための交換アダプターが『KP-A/N』である。アダプター本体には『KП-A/Н』と刻印されているがこれはロシア語(キリル文字)なので、相当するテテン文字に変換すると『KP-A/N』となる。

M42マウントのフランジバックは45.5mmで、Fマウントのフランジバックは46.5mm。これらは1mmの差があるので、この2種のマウント交換アダプターの厚みも当然1mmの違いとなっている。KP-A/Nを使用してバックフォーカスを適切に調整することで、JUPITER-37AをFマウントに乗せても無限遠まで使えるようになる。

ちなみに、厳密にはM42マウントのフランジバックは45.5mmではなく、45.46mmと45.74mmの新旧2種類が存在している。M42レンズをマウントアダプターを介してミラーレスカメラで使用すると、レンズとマウントアダプターの組み合わせによっては「無限遠に届かなかったり」逆に「かなりオーバーインフになったり」することがあるのは、このフランジバック仕様の整合性がとれていない組み合わせで使っているのが理由のひとつと考えられる。
現在出回っている多くの安価なM42マウントアダプターは、フランジバック値を45.5mm(±0.02)くらいと想定して設計・製造されているものが多いようだ。

KP-A/Nマウントアダプターは、国内でも探してみたが見つけることはできなかったので、これもeBayで購入することになったのだが、有難いことに$23での購入オファーを承認してもらえた。未開封品だったので付属品として1988年製造当時のロシア語(?)の説明書も付いていて、このソ連製の製品が2023年の今、ウクライナから送られてくるという奇なる時代の変遷を体感することになった。

Nikon Df:USSR MC JUPITER-37A 135mm F3.5:ISO100 f4 1/250

Nikon Df:USSR MC JUPITER-37A 135mm F3.5:ISO400 f3.5 1/250

Nikon Df:USSR MC JUPITER-37A 135mm F3.5:ISO200 f5 1/1000

MC JUPITER-37AのマウントをKP-A/NでFマウントに換えて、Nikon Dfで撮影した。
もちろん、無限遠も問題なく出る。プリセット絞りの扱いなど測光関係は少々面倒ではあるが、それを含めて愉しむのがヴィンテージレンズの醍醐味だと思っているので問題ない。

Nikon Df:USSR MC JUPITER-37A 135mm F3.5:ISO200 f4 1/125

Nikon Df:USSR MC JUPITER-37A 135mm F3.5:ISO200 f3.5 1/1000

Nikon Df:USSR MC JUPITER-37A 135mm F3.5:ISO400 f3.5 1/320

Nikon Df:USSR MC JUPITER-37A 135mm F3.5:ISO3200 f5.6 1/125

Nikon Df:USSR MC JUPITER-37A 135mm F3.5:ISO400 f4 1/640

とても愉しい。感性に合うレンズで撮影するのはとても愉しいものである。

機材選びでは、メーカーやブランドにこだわる、画質にこだわる、高価であることにこだわる、評判の良し悪しにこだわる、とにかく新しいことにこだわる、とにかく珍品であることにこだわる等々、人によって様々だと思うが、私の場合には操作性や描写される空気感が自分の感性に合うかどうかにこだわって選ぶのがいちばん愉しい。

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