kishin 貴真

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20221028

/PHOTOGRAPH

イメージサークルを奪還せよ Ⅰ

FUJIFILM X-E1:Super-Takumar 55mm F2:ISO200 f2.5 1/640

フルサイズのセンサーを搭載したNikon Dfに慣れた状態で、APS-Cサイズのセンサーを搭載したFUJIFILM X-E1を使っていて感じるのは、やはりレンズの画角が35mm換算で1.5倍になることによる感覚的な違和感だろう。

単焦点レンズで撮影することに慣れていると、被写体との距離感や構図に入る要素などは基本的に足に拠っている。ズーム機能が無いので足で決まるし、足で稼ぐし、足で調整する。この感覚がそれぞれのレンズの画角や最短撮影距離などと身体的に連動しているので、画角が1.5倍になると全てのバランスが崩れて、直感的かつ自然な流れで心地よく撮影するのが困難となり、その都度 “頭で考えなくてはならなくなる” のがもどかしい。

そう感じ始めた時に見つけたのが『フォーカルレデューサー』である。

「縮小光学系」とも表現されるこのアイテムは、レンズから得られる円形の光の像=イメージサークルを縮小することで、APS-Cセンサーを搭載したミラーレス一眼でも、画角を1.5倍にすることなく、レンズの本来の画角に近い状態で撮影できるようにする優れものだ。

このフォーカルレデューサー、市場にはいくつかの製品が出回っているが、上は業務用とも言える10万円近いものから下は1万円以下のものまで幅があるのだが、私が選んだのは評判とコストのバランスが良かった中一光学の《Lens Turbo Ⅱ (M42‐FX)》という製品である。中古で新品同様の状態のものを格安で入手できた。バージョン「Ⅰ」の方は画質に問題を抱えていて実用に適さないレベルだったようだが「Ⅱ」になって画質が大幅に向上したようである。

一見すると普通のマウントアダプターと変わらないが、当然ながら内部にはイメージサークルを縮小するためのレンズが内蔵されている。Lens Turbo IIの場合には、3群4枚というかなりしっかりとしたレンズが採用されているのでずっしりと重い。

手元に届いて嬉々として撮影してみると、しっかりと画角が回復されていて奇妙な歪みなどもなく良い印象であった。しかし、しばらく使っているとどうにも画質に納得がいかない。特にピント部分が太いというかユルいというか微妙にズレているというか、とにかく “ピシッ” と決まった写真が1枚も撮れない。ボケも二線ボケがやたらと目立つ印象で美しくない。

やはり、内蔵レンズを挟んでいるので画質の大幅な劣化は避けられないのだろうかと、ちょっと悲しくなりながら素通しのマウントアダプターと入れ替えたり、レンズを色々と替えて相性を探ったりしているうちに、あることに気がついた。Lens Turbo IIの内蔵レンズユニットに位置調整を施した痕跡を見つけたのだ。

レンズによっては後玉がボディ側に大きく繰り出す仕様のものがある。Lens Turbo IIは、そうしたレンズの後玉がLens Turbo IIの内蔵レンズにぶつかってしまう場合に、内蔵レンズをボディ側にシフトさせることが可能な構造になっている、ということをメーカーサイトに書いてあったのを思い出した。つまり、私が入手した中古のLens Turbo IIは内蔵レンズの位置調整をしたものだったのかもしれないと考えて、イモネジ跡を頼りに調整前の状態=工場出荷時の状態だと思われる位置に内蔵レンズを戻してみた。

すると、ピントが決まらない症状が劇的に改善したのである。
ごく薄〜い被写界深度でも狙った通りに撮影できるようになり、煩雑な二線ボケの症状も見られなくなった。

FUJIFILM X-E1:Super-Takumar 55mm F2 + Kenko AC CLOSE-UP No.4:ISO200 f2.8 1/1200

FUJIFILM X-E1:Super-Takumar 55mm F2 + Kenko AC CLOSE-UP No.4:ISO400 f4 1/1000

FUJIFILM X-E1:FUJIFILM X-E1:Super-Takumar 135mm F3.5 + Kenko AC CLOSE-UP No.4:ISO200 f4 1/500

画質を改善した状態で撮影してみると、うん、とても良い。

パソコンでピクセル等倍に拡大して病的に観察すれば画質の劣化もあるのかもしれないが、少なくとも普通に “写真として” 楽しむ範囲においては全く不自然なところは感じられないし、何よりもレンズ本来の画角を取り戻せた幸福感はなかなかのものである。撮影していても「そうそう、この感じだよ」となる。

新品で購入していたならば遭遇しなかったトラブルだが、しかし、この内蔵レンズをシフトできる機能は意味があるのだろうか? レンズの後玉がぶつからないようにできたとしても、ピントの品質が下がるのでは使い物にならないし、本末転倒に思えるのだが…。何にせよ、改善できてホッとした、そして微細な痕跡に気がついて適切に対処できた自分に賛辞を送りたい。

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