kishin 貴真

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20221008

/ARTTHINK

秋にふらりと日本画

数日前に街中で見た日本画展開催の広告を思い出し、晴れた土曜日に軽い気分で行ってみることにした。広島信用金庫八丁堀支店の10階にエレベーターで上がったところにある『ひろしんギャラリー』には、ぱらぱらと来場客が訪れていた。

油絵具やアクリル絵具とはちがう、やわらかくてさらりと粉っぽい質感の日本画もまた良い。出展作品数はそう多くないが、なかなかに粒揃いの展示で良い時間だった。

機会があるたびに実感するのだが、絵画や彫刻などこうしたデジタルではない作品は、写真や映像をディスプレイで見るのと、実物を肉眼で観るのとではまるで異なる体験となる。残念ながら現在のデジタル技術/キャプチャ技術ではまだまだアナログ作品をデジタルに変換して見せるにはまったく技術が追いついていないと言わざるを得ない。

この日本画展のチラシのメインビジュアルとして使用されている〈猫と小蝶〉という作品も例外ではなく、撮影されてチラシや広告に使われている写真と実際の作品では、まったくの別物となっており、実物の作品にある、深み奥行きのある背景に金粉でふっくらと表現された毛と繊細に描かれた白い毛・黒い毛を纏った猫は半ば溶けるように柔らかく、透明感を感じる軽やかさのある青い小蝶と猫の目の色彩の対比の心地よさにも惹きつけられる、そういった実物から別のメディアに変換された途端に消失してしまうものを感じとるにはやはり、足を運んで作品の前に立たないといけないのである。

実物を見ていない名画の写真をスマホの小さな画面で見ただけで、もう実物を観る必要はないと思ってしまう。食べたことのないものを、ネットの口コミを読んだだけで食べた気になる。行ったことのない観光地の写真を、SNSで見ただけであそこは良いだ悪いだと評価してしまう。映画を倍速で見るという行為に微塵の違和感さえも感じない。経験の質と重さは、それに費やし積み重ねた時間と労力が明確に関連して感性を磨きあげ、魂を豊かにさえもしてくれるという真実を全く理解できない、しようともしない。
そういうものに わたしはなりたくない。

この日本画展は、2022年10月31日まで開催で入場無料なので、近くを通りかかったついでに時間があればちょっと立ち寄って鑑賞するのもおすすめ。数十年生きてそれなりの年齢になった人が「美術館に行ったことが無い」と云うのを聞いて驚いたりもする昨今だが、芸術はもっとありふれた日常のひとコマであってよいと思うのである。

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