kishin 貴真

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20200718

/ART

感歎たる漆刷毛

カシュー漆 小箱

カシュー漆を塗っていると、特に広い面積の場合にはどうにも抜け毛が塗布面に落ち、しかもカシュー漆の場合には粘度が高いため、この抜け毛を取り除く作業に時間を取られ、その間に塗布面の乾燥が微妙に進行し全体の平滑性・仕上がり具合にも大きな悪影響をもたらし、非常に煩わしいと感じていた。

使っていたのは一応は “カシュー塗料対応” とされるカシュー刷毛なのだが、ホームセンターで数百円で販売されている程度の品質のものは、やはり機能性も価格相応であることがハッキリと分かった。

塗布面の美しさにさほど拘らずに塗るならこの程度のカシュー刷毛でも用を成すのだろうが、美しく善く塗れることを求めるのであれば、やはり本格的に “漆用” として作られている刷毛を使う必要があると感じて良い物を入手することにした。

漆刷毛工房ひろしげ

漆刷毛職人が作るきちんとした品質の漆刷毛について調べた結果、漆刷毛工房ひろしげにて、三分・五分・八分と巾の異なる3本の漆刷毛がセットになっている『スターターセット A』を購入。

漆刷毛 初期状態

本物の漆刷毛は鉛筆のように毛が柄の内部まで長く通っており、必要に応じて柄から削り出して使うのだが、削り出し、形を整え、ほぐして叩いてゴミを出し切り、そうした筆下ろし工程を経てようやく使えるちょっと手間のかかる道具ではあるのだが、そうした工程をきちんと踏まえた後に得られる漆刷毛の使い勝手や塗りの仕上がり具合は、やはり職人の手になるものであった。

粘度の高いカシュー漆を塗っていても抜け毛はなく、ただただ塗り具合に集中して作業を進めることができる。そう、求めていたのはこの感覚である。

萌芽

江戸時代から今日まで数百年に渡る実績から “漆の塗布には人毛が最適だ” と証明されているそのコシのある漆刷毛が塗り面の平滑性を保証してくれるため使っていて格別に軽快愉快で本当に素晴らしい。

私は本漆を扱わないので、こうした本物の漆刷毛を使うことはオーバースペックであるかもしれない。けれど、カシュー漆・合成漆であってもその塗料としての性質は本漆に近いものであり、必然的にそれを善く塗るにも本物の漆刷毛が適していることに異論の余地はない。

塗師のような職人でなくとも、こうした本物の道具を使う喜びや心地よさは感じられるものであるし、そうした感覚や経験は感性を磨くためには貴重な機会となる。本物を知ることの重要性に改めて気づかせてくれる、そんな質の高い漆刷毛をポリシーを持って作り続ける数少ない漆刷毛職人に感謝したい。

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