kishin 貴真

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20190422

/PHOTOGRAPH

オールドニッコールが愉しい

Nikon Ai NIKKOR 135mm F3.5

Nikon Dfを手に入れてから、40年くらい前に製造されたニコンのレンズ、所謂 “オールドニッコール” の状態の良くないジャンク品をオークションなどで安価にて入手し、丁寧にメンテナンスしては愉しんでいる。

一眼レフカメラユーザーの間でよく云われる言葉に「レンズ沼」というものがある。
レンズを交換できる一眼レフならではの話で、カメラを使っていくうちに本当には必要もないのに色々なレンズが欲しくなってしまい、その衝動から抜け出せなくなる症状、それをズブズブと引き摺り込まれる沼に喩えている。

しかし「オールドレンズメンテナンス沼」なんてものが存在するとは知らなかった。

レンズにカビが生えている、曇っていてコントラストが低い、ゴミが無数にあってまともな画像が得られない、ヘリコイドグリスが劣化してフォーカスリングが異常に固い、フォーカス時にガタガタ揺れる、絞り羽が動かない…等々、ジャンクレンズの状態には様々なものがあるが、外装の傷などは素人が直すのは不可能だとしても、手間をかけて分解し適切なメンテナンスを施せばまだまだ現役で活躍できる状態のレンズも多数転がっていることが分かった。

そういった、眠ってしまっている可能性のあるレンズを救済するのがとても愉しい。

そして、無事メンテナンスを完了して撮影してみると、40年も前のレンズでも素晴らしい描写性能を備えていることが分かり感銘を受ける。ジャンクで入手したのに、「全然問題ないじゃないか」と思う。

今回は、Ai NIKKOR 135mm F3.5をメンテナンスした。Nikon製のレンズのシリアルナンバーから製造年などを確認できるサイト〈Nikon Lens Versions and Serial Nos〉に依れば、このレンズは1977~1981年に製造されたMFレンズである。レンズにカビがあり、フォーカスリングが非常に固いというジャンク品を、本体¥300+送料¥1,200という値段で入手した。

レンズは分解して全4枚を1枚ずつ丁寧に磨いた。前玉の裏側のコーティング劣化によるまだらな反射だけはどうにもならなかったが、普通の状況下での撮影ではその影響は見られず、もしかしたら強い逆光下では何か描写に不具合が出る可能性はあるものの特に気になる症状はない。ヘリコイドグリスは、古いものを完全に除去し、新しいヘリコイドグリスを塗り直すことで素晴らしく軽くほどよくねっとりしたフォーカシングに蘇った。メンテナンスを施した後の描写や操作性は入手した値段価値を遥かに上回っており、撮影に一切の問題は無い。

このレンズの分解で1点難儀したのは、マウント面のネジ5本が極めて固かったことだ。

製造時に緩み防止剤のようなものが使用されており、普通にドライバーで回そうとしてもビクともしないほどに固着していた。ネジ山をなめてしまいそうだったので一旦は諦めたのだが、負けた気がしてイヤだったので、再度情報収集をして挑んだ結果、見事にネジを外すことができた。

こうした固いネジを回すための要点は3つ。

○緩み防止剤の除去 → 無水エタノールをたっぷり浸透させて6時間ほど放置して溶かす。
○ネジ山をなめないように → ネジにジャストフィットのドライバーを使用。
○ネジ山をなめないように → 摩擦増強液〈ネジすべり止め液〉を使用。

緩み防止剤対策には、アセトンを含んだ除光液も効果があるらしいのだが、アセトンはプラスティックとは相性が悪いため、レンズの分解時にはあまり使用したくはない。分解後にレンズだけをクリーニングするにはいい。また、ネジをハンダやアイロンの先端で熱することで一旦膨張させて隙間を作り、回しやすくするテクニックもあるらしいが、今回は必要なかったので試していない。

プラスドライバーに関しては、手持ちの物がごくごく微妙に合っていない感覚があったので、ホームセンターにレンズを持って行き、数種類のドライバーの中からバチッと合うものを入手した。

摩擦増強液などというものを初めて使ってみたのだが、これはかなり良い製品で、明らかにネジをなめずに回せる手応えが感じられる。使用に際してのコツは、液をネジに垂らしてドライバーの先端を差し込んだら、すぐに強く回さずに、まずは軽く回転方向を往復するようにコジコジしていると「ジャリジャリ」という音が次第に無くなり馴染んでくる。そこで押し込みながら回すイメージでゆっくりと回すとかなり固い状態でも動いてくれる。¥300程のアイテムなのだが威力は絶大で、今後、レンズの分解だけではなく色々なネジを安全に外すのに重宝しそうだ。

以上の3点の対策により5本のネジをなめることなく外すことができた。

Nikon Ai NIKKOR 135mm F3.5

何かを初めてやってみると、その体験の中で今まで知らなかったことを調べ身につけ成長できる。こういったことを繰り返していくことが人には大切だ、と私は考えている。昨日知らなかったことを今日は知っている。今日できなかったことが明日にはできるようになる。それがたとえ些細なことであっても素晴らしいことなのである。

Nikon Df:Ai NIKKOR 135mm F3.5:ISO400 f3.5 1/1250

このAi NIKKOR 135mm F3.5は、レンズ構成が4枚とシンプルなうえ、開放F値がf2.8ではなくf3.5ということで光学構造的にも無理がないのか、開放からとてもシャープな描写をしてくれる。そして、ピンが来ていない部分へのボケ方も自然で美しく感じられる。年代的な特徴かもしれないが色乗りは少々渋さが感じられるが、派手な画作りのレンズが好みではない私にとってはこの点もまた魅力的だ。

Nikon Df:Ai NIKKOR 135mm F3.5:ISO100 f4 1/800

Nikon Df:Ai NIKKOR 135mm F3.5:ISO100 f4 1/160

Nikon Df:Ai NIKKOR 135mm F3.5:ISO200 f8 1/1250

奇妙な鱗雲を反射して揺れる水面に浮かぶ泡ひとつひとつを滲むことなく立体感をもって描写してくれるし、ヌメッとした金属の質感やどっしりとしたコンクリートの質感の対比も見事に描写してくれるし、翼に薄く透ける光も捉えてくれる。オールドニッコールは、オールドと云っても決して “古い=劣悪” ではないことをその描写をもって雄弁に語ってくれるのである。

状態の悪いオールドニッコールを入手してはメンテナンスして愉しむ ─ これをちょっとした趣味にしてみるのもいいかなと思いはじめている。

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