kishin 貴真

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20160203

/FOODS

ながせの恵方巻

季節料理 ながせ 恵方巻

ここ数年で『恵方巻』という文字を見かけることが多くなった。

実は今年まで『恵方巻』が何なのか、全く興味も持たず由来も知らず食べることもなく、その存在自体を全方位的にスルーしてきた。ハロウィンもそうだが、子供の頃に育った地域に存在していなかった文化や風習を突然突きつけられても受け入れ方が分からずにモジモジしてしまうのだ。

季節料理 ながせ

先日、『ながせ』に行った。

『ながせ』とは、広島の本川町にある季節料理のお店で、美味しいものが食べたくなった時に足が向くのは大抵このお店。日本酒にこだわりがあるようで種類は多くはないのだが、訪れる度に日本各地の様々な品種の日本酒が用意されていてそれが楽しみのひとつでもある。店内はいつもクリーンで居心地も良い。

大将を含めて接客もとても感じが良いし、そして何より料理に間違いが無い。ひとつひとつの食材と丁寧に向き合っているだろうことが感じ取れる料理というのは言葉で言うほど簡単に作れるものではなく、況してや突出しからいきなりそれを感じさせる処というのは探してもなかなか見つかるものではない。またいくら料理人として修行を積んでも得られない生来の“センス”というものも大きく影響してくるので、そうした意味で『ながせ』の大将は、食材の見極めから技術・センスも含めて格別にレベルの高い料理人だと常々感心している。

その日も美味しい酒と肴で良きひとときを過ごした後、帰り際に店内に貼られた案内に目が留まった。
「節分の恵方巻 予約承ります」というそれを見て、恵方巻が節分に関係があることをようやく知ったと同時に関心ゼロだった恵方巻を試してみようと思い立ちその場で予約しておいた。1本 700円 2月3日の希望の時間に巻いておいてくれるという。実際のところよく分からない代物ではあったが『ながせ』の恵方巻ならきっと美味しいだろうという期待と共に2月3日を待った。

当日、予約しておいた17時少し前に受け取りに行くと、すでに数名分の恵方巻が用意されていて、カウンターの向こう側には大将がさらに数本の恵方巻を丁寧に巻いている姿があった。いつものように丁重かつ品のあるお迎えのなか、思いのほかどしりと重い恵方巻を受け取って帰路につく。

帰宅後、残っていた仕事を済ませてから食事の支度。

季節料理 ながせ 恵方巻

早速、恵方巻きの袋を開けてみるとすぐに酢飯のほんのりとした香りが鼻腔をくすぐり食欲を掻き立ててくる。かぶりつきたい衝動を抑えながら、端の方を少し切って断面を覗いてみると、穴子を主役に、玉子や煮しいたけ、かんぴょう、三ッ葉、桜でんぶ、胡瓜がしっかりと脇を固めている。

噂によると今年は南南東を向いて食べるのが吉とのことだったので「美味しい恵方巻が食べられますように」と願いながらかぶりついた。

穴子の風味を活かした絶妙な味付けに、かんぴょうと煮しいたけの旨味と香りが味わいに奥行きを与えてくれる。そこに桜でんぶと玉子の甘みが追い打ちをかけてきて、三ッ葉と胡瓜の青物コンビがシャキシャキとした歯応えと爽やかさで引き締めてくれる。七種類の中具の調和は見事なもので、あっという間に一本を平らげてしまった。添えられていたお漬物をポリポリと囓りながら「来年は二本だな」などと気の早いことを考えていた。

人生初の恵方巻は『ながせ』さんのお陰でとても満足できるものであった。
こうした“美味しい”風習なら大歓迎で、今後様々に展開し普及していってもらいたいものである。

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