kishin 貴真

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20151001

/ART

美術鑑賞時の写り込み

上村松園『観書』

広島県立美術館のHPAMコレクション展を観てきた。

芥川永『冬至の日』、竹内栖鳳『城址』、上村松園『観書』、奥田元宋『青山白雲』『寂』等がとても良かった。また、自分的には美術館ではあまり目にする機会が得られなかったフランシス・ピカビアの作品も1点観ることができたのは良い経験だった。ピカビアの作品はもっとまとまった形で観てみたい。

芥川永作品を含む彫刻作品の展示では、作品の周囲360度を開放してグルリと観て回れる状態になっていて満足。美術館によっては、彫刻作品を壁際に配置してしまって、作品の背後に回って観ることができないこともあるのだが、それは本当にいい加減にして欲しいと怒りさえ覚える。そんな展示の仕方は、絵画作品の表面を壁に向けて掛けるのと同じくらい有り得ない行為だと認識してもらいたい。

今回の展示では、栖鳳と松園の作品に関しては撮影OKということだったので、メモ程度の気分で撮影してみたのだが、想像した通り、やはり作品前のガラスへの写り込みが邪魔で綺麗には撮影できない。

竹内栖鳳『城址』

この反射の問題は当然、肉眼での作品鑑賞時も例外ではなく、展示室の照明状態や反射面の位置関係・角度などによっては、まともな作品鑑賞は殆ど不可能と思える場合もあり、非常に煩わしいものだと感じたことは一度や二度ではない。本展の栖鳳『城址』も正にその状態で残念だった。とは云え、作品保護の観点から展示ケースや額装のガラスを全て排除して展示することは難しいだろうから致し方ないこととして諦めるしかない。

だがしかし、その状況ももしかしたら今後数年で大きく改善されることになるかもしれない。

特殊材料を多層コーティングすることで反射率0.1%という驚異的な超低反射を実現したフィルムが製品化され始めているようで、日油の「AirLike®」という製品はすでに一部の展示会やミュージアムなどでも導入されているらしい。

実物を見たことがないのでその効果のほどは判断できないのだが、こうした超低反射フィルムの導入が美術館では当然のこととなれば、作品の魅力をより一層クリアに味わうことができるようになるのは当然であるし、更には、今までは写り込みを考慮して断念せざるを得なかったような展示室内の照明コントロールを含めた雰囲気作りももっとアグレッシブに展開できるようになるかも知れない。そうなれば、美術館で展示室に足を踏み入れるという体験自体がずっと濃密なものになる可能性も秘めているように思われる。

また、個人的には、自宅内での額装に使用しているガラスやアクリル面にも気軽に貼って使用できるような小型フィルムの商品化や、或いはこのフィルムを貼った状態でのガラスやアクリル板の指定サイズのオーダーメイド販売を検討してくれたら嬉しい。

保護と鑑賞。それはどちらも疎かにできない問題であるのでバランスが重要なのだが、新しい技術の開発によって、その双方が今よりもずっと高いレベルでバランスしてくれたら、そこには次世代の鑑賞体験が待っているのではないだろうか。各所の美術館には、こうした反射低減フィルムの導入を積極的に検討してもらいたい。期待は高まるばかりだ。

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