kishin 貴真

20151004

/ART

ポピーオイルは美味しい!?

ひろしま美術館 講演「絵具の進歩と表現の変化」

ひろしま美術館で催された講演「絵具の進歩と表現の変化」を聴講してきた。

講師はホルベイン工業 常務取締役 小杉弘明氏ということで、まさに絵具作りのプロフェッショナルによる講演ということでかなり期待して出かけた。内容としては、聴講者の傾向(大半が自身では絵を描かない人)に合わせてあっさりとした内容となっており、期待していたほど濃密なものではなかったものの、それでも絵具や顔料、オイルの興味深い一面を知るには良い機会となった。

西洋画と日本画における絵具の印象の違いの理由を、今までは根拠のない想像で片付けてしまっていたのだが、双方に使われる絵具に含まれる顔料の粒子にはそのサイズに大きな違いがあり、西洋画の絵具の顔料粒子は大きいものでも1µm程度なのに対して、日本画のそれは200〜300µmと圧倒的に大きいという説明を聴いて、やはりそうなのかとすんなりと合点がいった。

透明絵具と不透明絵具、また使用するオイルの種類による発色や明暗の印象の違いなども、ざっくりとではあったが解説を聴くことで、実地で体験して得た印象と一致していたことも確信へとつながった。聴きながらふと感じたのは、普段、油絵具を扱わない聴講者の方々はこういった話を聴いて果たしてなるほどと頷けるものなのだろうか、興味深い内容として受け止めることができるのだろうかという心配が脳裏をよぎったが、まぁ余計な御世話だろうか。

顔料は、時代と技術の変遷によって天然無機顔料→天然有機顔料→合成無機顔料→合成有機顔料へとそのフィールドを広げており、微妙に異なる種々の色が豊富に揃っている現代はまさに顔料パラダイスとも云える時代だということであった。その一方で、皮肉なことに時代は油絵具の使用からアクリル絵具の使用へと大きくシフトしており、それは勿体ないことだという話もあった。何故なら、油絵具に含まれる顔料の量は、アクリル絵具に含まれる顔料の量に比して多いため、『顔料』の素材的魅力を存分に発揮するのなら油絵具の方が適しているというのがその理由で、なるほどと納得できる部分も確かにある。

顔料をより多く乗せれば、より良い絵になるということでもないのは勿論だが、視覚的傾向としては顔料の乗りきっていない画面からくる薄っぺらい印象というのは確かに存在するため、作品のスタイルによっては、顔料の含有量という視点で使用する画材を再考してみるというのはあながち的外れなこととも云えないのかもしれない。

講演は、14世紀頃から20世紀までの巨匠たちの代表作を見つつ、絵具を含む画材や技法を簡単に解説しながらその推移を辿り、並行して原材料となる顔料の説明や合成/製品化の変遷を織り交ぜていくかたちで進行し、普段あまり触れることのない専門的分野の情報は興味深かいものであった。最初期の頃には絵具を豚の膀胱に入れて保存していたという情報は今後何かの役に立つのかどうか…それだけは気がかりだが。

それにしても「工場のポピーオイルを使って天婦羅を作ったことがあり、それはすごく美味しかった」という、絵具とも絵画とも全然関係のないエピソードが最も印象に残ってしまったのが妙に可笑しい。

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