kishin 貴真

20151106

  /  ART

シャルフベックの精神の軌跡

奥田元宋・小由女美術館

三次にある奥田元宋・小由女美術館で『ヘレン・シャルフベック ─ 魂のまなざし』展を観てきた。

全く知らなかったこのフィンランドの画家なのだが、別の美術館でこの展の告知のポスターか何かを見たときに本能的に「絶対に観に行く!」と決意していた。

観終わってはっきり分かったことは、エドヴァルド・ムンクしかりヴィルヘルム・ハンマースホイしかりなのだが、北欧の画家の血に流れている色彩感覚は、他のどの国のそれとも異なり、非常に強く際立った個性を持っているということ。それは、そういう“画風”ということではなく、もっと地域に根ざした根源的なものだろうと確信した。他の地に生まれた者が北欧に行ってそうした色彩感覚を頭で学んだところで本質的には近づくことのできないものだと感じる。

ヘレン・シャルフベック展

ヘレン・シャルフベック、その活動前期の作品は、筆致は決して緻密では無いのだけれどしかし、非常に繊細に描写されていて惹き込まれる魅力的なスタイルを確立している。特に輪郭への微妙なこだわりが見られ、被写界深度を絶妙にコントロールした見事な写真のようなエッジとぼかしの妙が、北欧特有の色彩感覚と相まって、画面の雰囲気を豊かに演出している。それに加えて、やや冷たく質量のある空気がゆったりと漂っているような空気感も観ていてとても心地よい。

これだけ魅力的な独自のスタイルを確立していながら、活動後期では一変してしまう点が非常に興味深いのだが、それがこの画家の最大の特徴と云っても良いかもしれない。

その変転の時期には、多様な画家たちからの影響(というよりも迷い?)が明確に現れており、セザンヌ、マネ、ピカソ、ローランサン、モディリアーニ、ムンク、ドガ、ゴーギャンらのエッセンスが次々と見え隠れする。同時に画面から繊細さが姿を消してしまうのは、おそらくは意図的に変化させようと試みたということもあったのかもしれないが、それ以上に何らかの理由でそれまでのスタイルを維持できなくなったのではないかと、作品を見ながら感じた。

それは、急速に視力が落ちたとか手を思うように動かせなくなったなどの肉体的な要因かもしれないし、あるいは精神的に集中力を持続できなくなったのか、そういったことの真相は分からないが、後期の作品には全体を通して痛々しいまでの悲痛な心情が込められているように感じる。その真相を色濃く内に秘めているであろう作品のひとつとして『未完成の自画像』という、カンヴァスの裏に描かれた作品には誰しも目を奪われずにはいられないことだろう。

奥田元宋・小由女美術館は、広島市内からは電車でもバスでも1時間半ほどかかるところに位置しており少々遠いのが残念なところなのだが、久しぶりに何やら凄い作品群を観ることができたので訪れた甲斐はあった。また、ちょっと変わった点では、この美術館は「日本で一番、月が美しく見える美術館」と謳っていて、満月の日には開館時間を21時まで延長しているということなので、次に訪れる時には満月の日を選んでみたいと思っている。

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