kishin 貴真

20171107

  /  ART

フォーヴ以降のヴラマンク

ヴラマンク展

今年のひろしま美術館の特別展は立て続けに、漫画/絵本系の企画で、それらに全く関心が無い私はしばらくの間この美術館には寄り付かなくなっていた。春が過ぎ、夏を通り越して秋までもが背中を向け駆け出した先日、ようやく待ちに待っていた《ヴラマンク展 ─絵画と言葉で紡ぐ人生─》が開幕した。

モーリス・ド・ヴラマンク(Maurice de Vlaminck)。1876年生まれのこの画家の活動時期は、パリ時間で云うなら印象派の後の世代、20世紀初頭〜中期となる。そうした時代の多くの画家が影響を受けたであろうポール・セザンヌやファン・ゴッホの影響を、このヴラマンクも受けている。

ゴッホを敬愛していたであろうことは生涯に渡る作品を観ても感じ取れるが、今回のひろしま美術館の展示では、そうしたヴラマンクのスタイルが確立される以前の模索している時期に描かれた作品から年代を追って順に展示されている点が実に興味深かった。

20世紀初頭の作品では明らかにセザンヌの画風に影響を受けていて、この時期を『セザニアン期』と呼ぶらしい。この時期の数点は、独自のスタイルという訳ではないのだが、しかし将来産み出す作品群から受ける力強さや濃密で重い量感はすでに見え隠れしていて、技術や経験以前に画家の内に備わっている強烈な感性の存在を指し示しているようである。

キュビスム的な手法を試している作品も観ることができたのは良かった。

ヴラマンクはキュビスムのような芸術的潮流には否定的であったはずだが、簡単に口先で否定するのではなく、実際に自分でもそうした作品を作り、考えた末に否定するという姿勢はフェアで良い。

私的に、この企画展での最大の収穫は、“ヴラマンク=雪景色の画家” という偏見を取り除くことができたことだろう。偏見というのは云い過ぎかもしれないが、曇った空と雪のある風景を強いコントラストで描いている数々の代表作しかほぼ知らなかったため、特に花瓶に活けた花の作品には魅せられた。

その中でも一点、どうしようもなく惹かれたのが〈花瓶の花〉という1912─13年の作品で、花瓶に活けた花という、あまりにも普遍的すぎるモティーフの静物画を観て鳥肌がたったのは、ゴッホの〈ひまわり〉以来であった。世界各地に点在している作品を一時的に集める巨匠の企画展はこういった出会いがあるから楽しい。スイスまで観に行くことはなかなか出来ないのでこうした機会を作ってくれることには感謝したい。

文筆家でもあったヴラマンクの遺言を含めて、晩年の作品まで観て感じたのは、最期まで作品と真剣に向き合っていたであろうこと。パッと見では似たような雰囲気の作品でも、近寄ってじっくりと観察してみると、制作時期によって筆づかいやナイフの扱い方が変化していくのが観てとれる。常に探求し続けたであろうヴラマンクの熱が今も尚そのカンヴァスから伝わってくる素晴らしい企画展だった。

そんな素晴らしい作品群を前にして、来場者達の態度ときたらどうだ。

展示室に入ってくる。そして真っ先にカンヴァスの横に貼られた小さな解説パネルに吸い寄せられるように見入る。その後にようやくカンヴァスに目をやる…数秒だけ。そうして、次の解説パネルへと歩みを進めてしまう。そんな見方をしている来場者が一人や二人なら気にも留めないのだが、9割方がそんな見方をしているため、ハッキリ云ってしまうと、その動きが目障りで仕方がないのだ。

─ 美術館に何をしに来ているのか! ─

モーリス・ド・ヴラマンク(Maurice de Vlaminck)

180cm・80kgというかなりがっしりとした体格であったらしいヴラマンクがこんな来場者達を見ていたら、きっと大きな拳を握りしめて、妻のベルトに愚痴のひとつもこぼしていたに違いない。

このヴラマンク展は、数多くの素晴らしい作品に出会える貴重な機会だと思う。
だから、この展に足を運ぶなら是非 “カンヴァス” を観て欲しい ─ “解説パネル” ではなく!

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